人間だけが二本の足で立ち、歩き、走ることの不思議。猪熊弦一郎(1902-1993)は、人間が立つことによって、他の動物にはない巧みなバランスをもった肉体が生み出されたと考えました。造型としての人間の身体を傑作と称し、とりわけ「この世の中で裸婦ほど完全な造型体は無いと思います」*と述べているように、裸婦を、さまざまな抽象形態がバランスよく満ちた一つの立体造型としてとらえました。猪熊が生涯にわたり描いた裸婦には、私たち自身がもつ造型としての美を、不思議を持って見つめた画家の眼差しが表れています。
*『アトリエ』1955年5月号、アトリエ出版社、p.2
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