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杉本博司 アートの起源 Hiroshi Sugimoto ORIGINS OF ART
◎杉本博司によるステートメント │ 科学 │ 建築 │ 歴史 │ 宗教 │
◎秋[宗教]
類人猿から現代人への進化は数百万年を必要とした。その間のいつの頃か、人間に意識が発生し、そしてその意識は覚醒していった。意識とは自意識であり、時間の意識化であり、死の意識化でもあった。人間はいつか死ぬのだと言うことを知ったのだ。意識を持った人類は生物界の中で特権的な地位を築いたのだが、その特権が誰によって与えられたものなのかを知ることが希求されるようになった。宗教的な心情は常にアートによって表現され続けてきた。しかし意識がやがて合理的な精神を紡ぎ出し、世界から不思議さが薄れてくるにつれて、人間の宗教への関心も希薄になりつつある。しかし宗教も芸術も科学も、そもそもこの不思議さの探求から始まった同床異夢なのだ。
地 水 火 風 空 とされた宇宙の五大要素を表現した五輪塔は、この宗教、科学、芸術、の三種の神器が三位一体となって、悠久の時間とその歴史の流れゆく先を見せてくれるかもしれない。それは光学硝子の球の内に閉じ込められた、人っ子一人いない海景へと、再び戻っていく道しるべのようにも見えるのだ。
杉本博司
1.《三十三水晶五輪塔》光学ガラス、2010年
2.《キリスト胸像》14世紀、木彫、イタリア・トスカーナ地方
3.《カリブ海、ジャマイカ》1980年、ゼラチン・シルバー・プリント
4.《十一面観音立像と海景》「杉本博司 歴史の歴史」
(金沢21世紀美術館、2008-09年)での展示風景
十一面観音:平安時代、10−11世紀、木造
海景写真:1980ー1995年、ゼラチン・シルバー・プリント
all images ©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
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