いまを生きる人が思い描く「顔」とエピソードを集めることで、さまざまな人の心を見つめる「かがわ絵顔プロジェクト」。2021年度から2022年度にかけて実施した本プロジェクトについて紹介します。

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いま、この時代に描きたい顔は何か?

誰を想い、どんな未来を描いているか?

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(以下、MIMOCA)が開館30周年を迎える2021年、コロナ禍により移動の制限や経済停滞などさまざまな問題が浮き彫りになりました。不安定で不寛容な時代だからこそ、いまを生きる人々の心を癒したいと考えたNHK高松放送局と協同し、「NHK かがわ絵顔プロジェクト」を立ち上げました。

顔に向き合い、顔を描く
本プロジェクトは、猪熊弦一郎(1902-1993)が描いた晩年の「顔」シリーズが発案のきっかけとなっています。妻を喪ったことを機に、妻の顔が出てくるかもしれないとたくさんの顔を描き始めた猪熊でしたが、やがて顔の造形の面白さに魅了されて、形やバランスがさまざまに異なる顔を描いていきました。顔に向き合うことで、新しい自分に出会うかもしれません。顔を眺めることで心が癒されるかもしれません。そのような思いからMIMOCANHK高松放送局とで企画を考え、一般の方々に作品制作を呼びかけました。

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プロジェクト初年度に集まった作品は約2,000点でした。その多くが「自分の顔」を描いた作品でした。いまの自分の顔、これからなりたい自分の顔。不安や不満な顔、マスク姿の自画像が描かれた作品があることも、この時代だからこそ生み出される表現です。一方、「大切な人の顔」も数多く描かれていました。家族や長らく会えていない友人、知人。多くの人が、コロナ終息を願って描いたことでしょう。他にも「動物の顔」から、ヒーロー・ヒロインを描いた「憧れの顔」まで多様な"顔"が集まりました。


2021年度応募作品とエピソード(一部)
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《にやにや笑っている人》
"にやにや笑っている人を書いたのはみんなが笑ってすごしてほしい気持ちを表したかったからです。笑っていると楽しかったりするのでみんなに笑っていてほしいから書きました。"

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《家族〜弟の笑顔〜》
"今かきたい顔が弟の笑顔なのはキラキラとした目で、おもいっきりわらってくれる顔がかわいくて、いつまでも守りたい顔だと思ったからです"


応募作品を全て展示するために、丸亀市市民交流活動センター「マルタス」をはじめ、JR高松駅、JR丸亀駅、高松空港、FACE21、道の駅源平の里むれといった公共の場や地域の施設など広域で展示しました。

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また、MIMOCAのシンボルでもある大壁画《創造の広場》(1991年)に一部の作品を投影する試みも行いました。

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紙いっぱいに広がる未来の顔
続く2022年度は「紙いっぱいに広がる未来の顔」をテーマに顔を描いた作品を募集しました。一般応募で集まった作品472点を全てMIMOCAの造形スタジオ内で展示しました。絵と、その絵を描いた背景や想いを綴ったエピソード用紙を含めて一つの作品として展示することで、描いた人も、描かれた作品を観た人も、顔と向き合い、心を癒す時間となることを目指しました。

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2022年度応募作品とエピソード(一部)
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Try, me
"学生時代から25年ぶりに描いた自画像です。大人になり、こんなに絵と向かい合う時間があっただろうか。子供の頃とは違う形で又絵と向かい合う時間を持てたらいいと思います。Re start. 又ここから始まる私の未来です。まずは自分を描くことにTry me."

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《マスクの下》
"最近はコロナ禍でマスクの下が見えない生活だけど、みんな笑ってるよという意味をこめました。背景も学校の教室の様子にして学生のみんなが実感しやすいようにしました。マスク生活になってから目だけ笑っている人やそもそも笑わない人や、色々見かけます。この絵にはみんな笑っててほしいという願いもこもっています。いつかまたマスクなしで全力で笑える日が来てほしいなという想いをこめました。人の顔が見えるってあたり前だけどあたり前じゃないことに気付けました。これからもあたり前を大切にしていきたいです。"


展示に際して、関連イベントも二つ実施しました。一つは四国汽船「なおしま号」船内でのイベント。瀬戸内国際芸術祭2022開催にあわせて、観光客で賑わう宇野港・宮浦港・高松港で顔写真とメッセージを集めました。チェキで即座にプリントアウトし、ポストイットでメッセージを書いてもらう参加型イベント。多くの人から、美しい瀬戸内への再訪を望んだメッセージを寄せていただきました。イベント終了後はこれらを造形スタジオに運び出し、応募作品とともに展示しました。

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もう一つは展示期間中に実施したオープンワークショップ「顔を描いてつなごう!」です。展示会場をバージョンアップさせるため、一般の来場者も絵を描き、展示できるための制作スペースを造形スタジオ内に設置しました。15cmサイズの白画用紙に思い思いに顔を描き、展示会場に貼り出していくというもので、最終的に230もの"顔"が集まりました。

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来場者の方からのコメントを紹介します。

「ひとつひとつの素敵な表情に自分の心に向きあうことができました。絵ごころのない私ですが、それぞれの顔、メッセージに描いた人の想いや、ことばを感じることができました。ありがとう。私も一歩ずつみなさんといっしょに歩いていきます。」

「コロナ禍でこれまで当たり前だったことを経験できなかった子ども達。ここに描かれた未来に向かって、力強く進んで欲しいと思いました。私なりに応援していきたいと思いを強くした展示でした。」


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年に渡るプロジェクトで集まった作品は約2,500点にのぼります。テレビの特集を見て応募された方や、授業内で取り組んでクラス単位で応募してくれた学校関係者の方々など、関わり方はさまざまでした。応募してくださった方の中には気持ちが整理できないまま描いた人たちもいたでしょう。そういった人たちにも、何年後かにふと"顔"について思いを馳せる日が訪れるかもしれません。そこにこのプロジェクトの意義があると考えています。静かに、ゆっくりと、この体験が心に刻まれていき、いつかまた"顔"に向き合う日が来ることを願います。


*応募作品のエピソードは全て原文ママ


文/奥本 未世


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◎関連リンク
NHK かがわ絵顔プロジェクト2022