丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)では、9月5日(日)まで展覧会「猪熊弦一郎展 いのくまさんとニューヨーク散歩/FEELIN’ GROOVY! Walk Around New York with Genichiro Inokuma」を開催中です。いつもとは少し違う切り口で猪熊弦一郎(1902-93)の魅力を見せられればと、この展覧会では「編集長」に編集者の岡本仁さん、「副編集長」に元ニューヨーカーの河内タカさんを迎えています。コラム前編では、二人に猪熊との出会いや、改めて気付いた猪熊の魅力について語ってもらいました。

撮影/来田 猛

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ゲートプラザにて


ーコレクター・いのくまさんとの出会い

岡本
ぼくが初めていのくまさんに出会ったのは、建て替え前の東京・丸の内の東京會舘でした。入ってすぐ壁画が目に飛び込んできて、そばに寄ったら「猪熊弦一郎」って名前がありました。40代後半での遅い出会いでしたが、その時に友人に『画家のおもちゃ箱』(猪熊弦一郎著、大倉舜二写真)を教えてもらいました。
この本にはいのくまさんが持っていた古いイームズの椅子のエピソードや、ネイティブアメリカンの木製の人形「カチナドール」の話が載っていて、さらにそこにアントニン・レーモンドやイサム・ノグチも登場します。当時のぼくの興味と重なるものがあって、いのくまさんってどういう人なんだろう、と惹かれました。

河内
ぼくはニューヨークに住んでいた時は猪熊さんのことを知らず、実は先に谷口吉生さんが設計した美術館の建築に興味を持ったのが最初でした。その後、ホンマタカシさんの展覧会に訪れたときに、猪熊さんの作品と収集されていたコレクションを知りました。その時にイームズのシェルチェアを日本で最初に持っていたのが猪熊さんだと知って、そこから俄然興味を持つようになりました。谷口がつくった美術館に来て、そこで猪熊さんの面白さにはまってしまった、という感じでしたね。

岡本
あ、コレクションに惹かれるのはおんなじ(笑)。

ー所縁の品々から作品へ、いのくまさんの世界をたどる

岡本
展覧会の準備を進める中で、ニューヨークのいろんなギャラリーからいのくまさんに来たたくさんの招待状が今も残っているということには驚きました。
こういった作品のタネのようなものがいのくまさんの場合はすごくたくさんあって、今も見られます。ぼくが好きなものを持っていて、そのものの後ろにはすごい人たちとの交流があって、そうやってできた、いのくまさんの開かれた世界に触れられるのが面白いですね。そしてどういう心の動きがあって作品ができていったんだろう、とタネを入り口にして作品にたどり着けるので、教科書に載っている作品の画像から作家を知るのとは全然違います。
ぼくはニューヨーク時代の作品の中では梯子みたいな細かい格子を描いている作品が一番好きなんですが、いのくまさんが撮った写真やタカさんからのヒントで「あ、ニューヨークの街をそのままいのくまさんの視点で描いているんだ」と、自分なりの気付きが得られました。

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岡本 仁さん

河内
猪熊さんは見ている世界が格段に細かい。「小説新潮」の毎月の表紙絵に合わせて書いた手記を読んでいくと、出会った親父さんの表情とか言葉とか、全部書き留めていて伝えようとしているじゃないですか。ニューヨーカー以上にニューヨークという街とそこに住む人々をすごく深いところまで見ていて、しかもその視線は温かさやヒューマニティに溢れている。そこが猪熊さんの面白さで、特殊な能力を持った人だなあと強く思いましたね。

ーいのくまさんは「ポジティブなミーハー」

河内
猪熊さんはすごく純粋ですよね。パリ時代とか戦争時代とかでも、何に影響を受けたか、すぐに出ちゃうんですよね。ニューヨークでも具象から抽象に行って、その後もスタイルをどんどん変えていって。アーティストとしては危なさもあるけど、子どものような純粋さとストレートさがあって、受けた影響を自分の中で培養して新しい作品で表現することにものすごく長けている優れたアーティストだと思います。

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河内タカさん

岡本
いい意味でミーハーだと思うんですよ。
絵を追求しているけど、絵以外、絵の外側にあるもの全体に対しても興味を持つ感覚が年齢よりも全然若い。すでに50代で東京で活躍していて、大きな作品も残しているのに、それをゼロにしてニューヨークに行く決意をして、そこで全く違うものを確立していく。今の興味をストレートに出していく。生涯でここまでスタイルを変えるアーティストってあまりいないような気がするんですよね。

河内
ポジティブすぎるくらいミーハーな人ですよね(笑)。
自分がやりたいことしかやりたくなくて、ある意味能天気。「ミーハー」と同じでこの言葉も猪熊さんにとっては褒め言葉となりえるし、その飄々とした感じがまさに「猪熊節」だとぼくは思うんですよ。偉ぶらないし、なんでも吸い上げちゃってそれを素直に作品に出しちゃう。

岡本
映画「スターウォーズ」を見たら面白い宇宙人がいっぱい出てきたから、それに刺激されて絵を描いたりもしていますね。影響の受けやすさが素直さでもあるし、スタイルを確立しなくても平気だからどんどん新しいものを生んでいったんだろうなと思います。


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