丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)では2021年6月6日(日)まで「まみえる 千変万化な顔たち」を開催しています。
この展覧会の参加作家のひとり、super-KIKIさんに今回の出品作を中心にどのように「顔」を捉えて表現されているのか、お話を伺いました。


インタビュアー・文/島貫泰介
撮影/福田ジン

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《創造の広場》前にて

super-KIKIさんはフェミニズムに関するZINENEW ERA Ladies』に参加したり、社会運動に関わるデザインやファッションなどを制作したりしています。そういった興味はどこから生まれたのでしょうか?

KIKI
最初は2011年の東日本大震災でした。原発事故などに対する国の政治に疑問を持つようになって、原子力に関する勉強会やデモなんかに参加してみたんです。それはすごく勉強になったし、今もいろんな問題の勉強会やデモにはたまに行くのですが、初めは激しい表現のプラカードや直接的な言葉を大声で言ったりするのが攻撃的に感じてしまうこともありました。今はそういった表現の重要さもわかるんですが、自分は部屋の隅でもぞもぞ絵を描いていたようなタイプだったので、当時は正直居辛さも感じていて。
だったら、自分たちにとって居心地のよい運動をつくってみようということになり、初めは私の姉とやり始めて、それからデモで出会った人や友人たちと「SAYONARA ATOM(サヨナラ・アトム)」というグループを結成したんです。手づくりのぬいぐるみでゆるふわな横断幕をつくったり、Tシャツにメッセージをかわいくプリントして着てみたり。ここから「自分が表現できる方法を路上で活用する」っていうスタイルが始まったように思います。

ー既存の運動に、新しい提案をしたわけですね

KIKI
そうやって活動していくと、あらゆる社会問題や自分の生活の中に、男性優位の縦社会や権力の問題があることが見えてきました。それに疑問を呈したり抵抗したりするための方法として、フェミニズムも重要になってきた感じですね。
ただセクシュアリティやジェンダーに関わる問題になってくると、自分自身のアイデンティティや当事者性も深く問わなければならなくなります。反原発デモのように「おかしいことはおかしい」と主張するだけでなく、自分自身と向き合う作業が必要になってくる。フェミニズムは性の問題だけではなく国籍や人種、格差や置かれた状況なども広く見なければならないものだし、自分の中にある加害性やマジョリティ性にも向き合っていかなければならなくなります。これが結構しんどい。なのでケアしたり抵抗したりといった、そういった試行錯誤のなかから、今回展示している《Selfies》も始まっています。

ー《Selfies》はInstagramのなかでも展開する自撮り(セルフィー)のシリーズです。多種多彩なキャラクター像に見えますが、写っているのは全てKIKIさん自身。つまりそのすべてが自画像であるとも言えるように思います

KIKI
展覧会のテーマである「顔」っていろんな捉え方ができますけど、私にとっては誰かから勝手に与えられた、自分が選択したものではない、というイメージがあります。女性って、顔や見た目でものすごく評価されます。でも自分で選んだわけでもないもので、優劣が決められることに小さな時から納得いかなかったんですよね。でも生まれてからずっとその尺度で測られてきて、社会がつくった美醜の規範から自分自身も本当には抜け出せていないこともわかるんです。納得がいかない一方で、美しく見られたい自分もいる。そういうジレンマやジェンダーの問題を表現したのが《Selfies》です。

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まみえる展 展示作品の一部

ー自分一人でつくれる作品であることも重要だと聞きました

KIKI
自撮りの手法自体がそうですし、かつらやメイクに使うコスメも安価なものを選んで使っています。
いまの社会って、家族とかコネクションとか「つながり」がある方が生存しやすくなっている。その全部を否定はしないけれど、孤独でも生きていける可能性を私は探求したいタイプなんです。クラスの隅っこにいるような人の素晴らしさがあって、それは社会的には広く認められない価値観かもしれないけれど、孤独であることによって得られる豊かな世界があると思います。自分の、今の社会から見たら変わっていたりマイノリティだったりするところをアイデンティティとして認めることは、同時に、人間は多面的で、世界には自分と違ういろんな人がいるんだと認めることですから。

ーだから多様な自己像を並べているんですね。

KIKI
一人の人間だけれども、社会が定義できない複雑さは誰でも持っている可能性はあるし、ラベリングされ続けた私でも、それを跳ね除けて取り戻すことができる。私たちは何にでもなれる、という希望を見せたいんです。

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まみえる展設営現場にて


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